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第109話 食物アレルギー特定原材料の追加

2023.04.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/

2023/4/1 update

  

 

食品表示法に基づく食品表示基準が2023年3月9日に改正され、表1のように「くるみ」が食物アレルギー特定原材料に追加指定されました。2025年3月31日までは、経過措置期間とされていますが、速やかな「くるみ」の表示が望まれます。国際的にも未然防止が求められている食物アレルギー対策について、おさらいをしてみましょう。

 

 

1) 食物アレルギーに関する表示制度

わが国の食物アレルギー表示制度の概要を表2に示します。2023年3月8日までは、食物アレルギーに関する表示義務がある特定原材料は「えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)」の7品目でした。「くるみ」は、表示が任意の21種の特定原材料に準ずるものでした。3月9日の食品表示基準の改正により、表1のように「くるみ」は表示義務のある特定原材料に指定されました。

図1および2は、わが国における食物アレルギーに関する病院からの報告の年次変化です。図1のように、木の実が原因食品となる症例が増え、2020年には、鶏卵、牛乳につぐ第3位の症例数となりました。

 

 

 

原因となった木の実としては、図2のように「くるみ」が多く、その増加率も群を抜いていました。わが国でも「くるみ」を、沢山食べるようになったことが原因であろうと考えられています。従来以上に、「くるみ」の取り扱いに注意を払う必要があります。表示は猶予期間が2025年3月31日まで、認められていますが、速やかに表示を実施するべきです。

図2のように、「カシューナッツ」による食物アレルギーの発症例も増加しています。消費者庁は、分析法の確立等の表示義務化の準備を進めています。従前にもまして、「カシューナッツ」の取り扱いに注意を払い、表示義務化を待つのではなく、表示に取り組んでいただきたいと思います。

 

2) 正確な情報の共有がなければ

食物アレルギーに関する表示制度は、発症やその心配をなくす有力な手段です。効果を発揮するには、フードチェーンの始まりである原材料の一次生産から、消費者による最終消費までの正確な情報共有が大前提です。

 

 

 

残念ながら、図3のように表示の誤りや誤認識による食物アレルギーの発症が起こっています。図4のように、昨年11月末には学校給食のお好み焼きで8人が発症し、1名が病院に救急搬送される事故も起きています。「卵と山芋を使わないお好み焼き」という仕様の情報が、共有されなかったことによる事故でした。

 

 

図5のように、小学校の新1年生の食物アレルギー対策も、情報共有を忘れずに行うことから初めていただきたいと願っています。

食物アレルギーについては、科学的根拠を持つ情報共有が必要です。不安や疑問があれば、公的機関に相談していただきたいと思います。下記のホームページも、参考にしていただきたいと思います。

・食物アレルギー研究会
  https://www.foodallergy.jp/

・アレルギーポータル(日本アレルギー学会運営、厚生労働省 補助事業)
  https://allergyportal.jp/

・公益財団法人ニッポンハム食の未来財団
  https://www.miraizaidan.or.jp/patient/

 

「食品事業者の食物アレルギー対策の実施規範」が、Codex国際食品規格委員会で採択されています。和訳は、NPO食品保健科学情報交流協議会から、下記の参考文献に示したように提供されています。

食物アレルギー対策にも、フードチェーン全体で取り組んでいただきたいと願っています。

 

参考文献:

  • 消費者庁:アレルゲンを含む食品に関する表示、令和5年3月9日、
    https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_230309_07.pdf
  • 消費者庁:令和3年度即時型食物アレルギーによる健康被害に関する全国実態調査報告書、令和4年3月、https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_220601_01.pdf
  • Codex: CODE OF PRACTICE ON FOOD ALLERGEN MANAGEMENT FOR FOOD BUSINESS OPERATORS CXC 80-202、2020年、 
    https://www.fao.org/fao-who-codexalimentarius/sh-proxy/en/?lnk=1&url=https%253A%252F%252Fworkspace.fao.org%252Fsites%252Fcodex%252FStandards%252FCXC%2B80-2020%252FCXC_080e.pdf
  • (同上の和訳)食品保健科学情報交流協議会:コーデックス委員会が公表した新しい食品アレルゲン管理に関するガイドラインの紹介、食科協ニュースレター、第11号、2021年2月18日
    https://www.ccfhs.or.jp/hp/wp-content/uploads/2021/02/%E9%A3%9F%E7%A7%91%E5%8D%94%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%AC%E3%82%BF%E3%83%BC211%E5%8F%B7.pdf